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イッツ・オンリー・トーク 『イッツ・オンリー・トーク』
小説単行本
2004年2月 文藝春秋社刊

第96回文學界新人賞受賞/
第129回芥川賞ノミネート
絲山秋子処女作
(第二作「第七障害」も同時収録)

「イッツ・オンリー・トーク」は、作者自身も住んでいる蒲田の街を、ぶらりぶらりと飲み歩いているような小説だ。店のそれぞれに鬱病のヤクザや童貞の都議、分別ある痴漢など一癖ある客ばかりが集っているのだが、彼らと飲む酒は生々しくもカラッとしていて、嘘がない。つまみもそれほど高級なものばかりではないが、調理の腕は 確かである。「眠れるスペースとしての男が欲しいだけだ」「自炊ができるようになった。性欲が出てきた」?何気に出された皿に手をつけると、歯ごたえが良くて杯 がすすむ。ついあちこち梯子して店を出ると、夜風が妙に爽やかだ?そんな感じである。

さまざまな人物を介在して語られる主人公の姿は、ちくちくとリアルで目が離せない。ストーリーはあちこちへと展開するが、話のリズムは乱れない。音数少なく控えめながら、きっちりとビートを叩きだすドラマーがバックにいるようだ。例えばチャーリー・ワッツとか。ちょっと誉めすぎか。しいて言えば全部で15あるタイトルのつけ方?そこで選ばれた言葉と本文との距離感?など少々違和感を持つ部分がないわけでもないが、文芸誌新人賞の作品としては間違いなくひとつ抜けている。気になる作家の登場です。最後の段落の「ロバート・フリップがつべこべとギターを弾 き…」には、座布団100万枚!

「第七障害」
文學界新人賞受賞第一作(長い!)のこの作品は、「イッツ・オンリー・トーク」とは多少趣が違う。ピッチングでいうと「変化球だけじゃなくて真っ直ぐも結構いけるのよ、アタシ」(誰?)っていう感じだろうか。でも球筋はなかなか素直で伸びがいい。

この小説の魅力のひとつは、舞台のひとつである群馬の描写だ。故黒澤明監督はデビュー作「姿三四郎」を語って、「明治という時代の明るさが描けないと姿三四郎の性格は表現できない」と述べていたが、役者の芝居だけを必死につけてもキャラクターは呼吸しないのだろう。背景にある空気をきちんと描くことの大切さは、文学でも同じだと思う。「第七障害」に描かれている町や山の空気は、最近の小説では意外に出会えないものではないだろうか。「溶け込めない私」や「何もわかっていない貴方」のことはマメに書き込まれていても、カメラをひいたら何が映るのか想像できない。 スタジオの白い壁なのだろうか。

元カレの妹美緒や乗馬仲間だった篤の存在も魅力的である。(その分主人公の順子が引き気味にも感じなくもないのだが…)舞台や設定、登場人物のしっかりした描写にひかれて物語の中に入り込むと、素朴で切なく微笑ましいエンディングが待っている。気持ちのよい短編だ。

by TRASH BOX
http://trashbox.soupmug.com/

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